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炊事場のスーザン・ボイル(THE BRADY BLOG)

(THE BRADY BLOGからの抜粋です。↓)

障害を持つ人間は、何かの分野で極端に秀でた人が多いというが、彼女の場合がまさにそれだ。

「あなたは料理の天才ですね。」

ある日、S子さんと一緒にベランダに佇んでいた彼女に声をかけてみたことがある。

彼女はいきおい真っ赤な顔になって、あ~、あ~、う~、ともじもじシャイになってS子さんの背後に隠れ、それから「きゃああっ」と乙女のような悲鳴をあげてキッチンの方に逃げて行った。

「知らない人に話しかけられると怖いのよ。

褒められたりすると、余計にね。」

S子さんに言われて、そうだったのか。

と思っていると、ルーシーがいきなりベランダに駆け戻ってきた。

「あんた本当は私の料理のこと嫌いなんだろ。それならそれとはっきり言え、この(F)偽善者! (F)嘘つき! (F)OFF!」

彼女は血相を変えてそう言い、そばのテーブルの上にあったグラスをわたしに向かって投げようとした。

S子さんがとっさに彼女の手を掴んだので危機は免れたが、ルーシーは仁王立ちしてぷるぷる震えながら、物凄い憎悪のみなぎる眼差しでこちらを睨んでいる。

褒めたのに激怒されるって、なんで?

と思ったが、当該施設に出入りしている人々には常識がまかり通らぬことが多いので、とりあえず謝罪すれば気分がよくなるかな。

というまことに日本人的な姿勢で、

「何か気に障ることを言ったのなら、ソーリー」

と言うと、ルーシーは

「ふん、この腐れビッチ」

と吐き捨てるように言って、炊事場のほうに戻って行った。



このタイプの女性が、底辺生活者サポート施設にはけっこういる。

何らかの才能は明らかに持っているが、障害やメンタルヘルス上の問題などによってそれを社会で換金することの出来ないおばさんたちである。

こういう人々はみな独身で、一人暮らしまたは年老いた親と同居しており、身なりなどにも一切かまわないことから年齢よりもずっと老けて見え、「45歳の処女」「口ひげばばあ」等のニックネームがついている。



酒とドラッグとセックスに依存し、ボロボロ子供を産んでは政府からの補助金を欲しいままにする女性たちとは、また別のタイプのアンダークラスの女性たちである。



しかし当該施設のようなチャリティー団体はこのような女性たちの能力に支えられている側面があり、ある者は料理に尋常でない手腕を発揮し、またある者は英国人のくせにブリリアントな計算能力を持っていたり、写真を撮らせればプロ顔負けのおばはんもいるし、やたらめったら絵のうまい人などもいる。



力のある人を世の中は放っておかない。

というのは、わたしの元上司の口癖だったが、ここでは物凄い能力のある人々が埃にまみれて世間の片隅で忘れ去られている。

とはいえ、“力”というものの中には、きっと“実際の作業をする能力”というのはあまり含まれておらず、自己プロモやネットワーキングを行う手腕といった“作業換金力”が80%から90%なのだろう。


だとすれば、前述のおばはんたちには全く“力”はない。

ただ異様なほど“作業を行う能力”に恵まれているというだけで。


炊事場のスーザン・ボイル(THE BRADY BLOG)
by lootone | 2013-02-07 11:06 | ・ある出来事と言葉